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スリーピング・ビューティー #01

炎天下。

アスファルトが照り返す夏の日射しは強烈だが、永瀬麗子はものともせずに、涼しげな眼差しを振りまいていた。
スラリとした肢体には、超ボディコンの白いコスチューム。颯爽とブーツを穿きこんだ、ミニから伸びる脚線が悩ましい。

「永瀬さーん。永瀬麗子さーん」
「すみませーん。視線くださーい」

パドックを取り囲むカメラ小僧たちが、口々に声をかけると、永瀬麗子は丁重に応えていく。

白の長手袋をつけた手を、肩の高さで小さく振る。
軽く片脚を後ろに引いた姿で、美脚を見せつけるポーズを決める。
笑みをこぼせば、白い歯列が眩いほどだ。

……さすがだよ、永瀬さん。

進入禁止のロープ際に、鈴なりになったマニアたちは、永瀬麗子の勇姿にむかってシャッターを切り続けていた。

これだけの超ボディコンを着こなせる女など、あまたのレースクイーンたちのなかでも、ほかにはまず思い当たらない。
下品さの、かけらもないところが、まず素晴らしい。
伸びやかで、すがすがしく、ボディコンの白さに清らかさすら感じるほどなのだ。

約二十分ほどで、パドック前での仕事は終わり、永瀬麗子は引き上げた。
メカニックたちに挨拶を返しながら、ガレージの暗がりを通過して、日の当たる路上に出る。

ガレージの裏側は、関係者用の駐車場に面していて、マシンを運びこむトレーラーや、機材を満載したトラックなどが駐車されていた。
永瀬麗子はブーツの靴音も高らかにアスファルトを歩いた。
不意に声をかけられたのは、休憩所に使っているマイクロバスに乗り込もうとしたときだった。

「――永瀬さん」

振り向くと、暗い目をした太った男が立っていた。

大きなジェラルミンケースを肩にかけ、半袖のTシャツのうえからカメラマンジャケットを着こんでいるが、プロの写真家ではないだろう。色が白すぎるし、粘着質な独特の雰囲気を、異臭のようにまとわりつかせているからだ。

「はい」

と、永瀬麗子は答えると、警戒した面持ちで向きなおる。

「これから休憩ですか?」
「すみませんが――」

親しみを感じさせすぎないように、しかし、きつくなりすぎもしないように、冷静な口調で永瀬麗子は言う。
「こちらの区画は関係者以外の方には、ご遠慮いただいているんですけど」

「いや、わかっていますよ。それにしてもサーキットというところは不用心ですね。立ち入り禁止の標識が一本立っているだけで、警備員がいるわけでもないし」

太った男はいいながら、ネチネチとした視線をボディコンのコスチュームに包まれた肢体に向けてくる。
歩くうちにズリ上がった超ミニの裾先を、永瀬麗子は両手をつかって引きおろした。
非難の調子を口調にこめて、

「なにかご用でしょうか?」

すると、太った男は、薄く笑った。
「写真を撮らせてもらえませんか?」

永瀬麗子は押し黙り、瞳を冷たく光らせると、そっけなく答える。

「撮影なら、場所と時間が決まっているので、そちらでお願いできませんでしょうか」
「いえ、そういうわけにはいかないんですよ。なにしろボクが撮りたいのは、永瀬麗子さんの裸なんですから」

永瀬麗子は少し首をかしげた。
ショートヘアのよく似合う凛とした貌立ちの持ち主だった。
正気をはかりかねるような目で、マニアックな男の顔を見かえした。
白の長手袋の腕は、まるで乳ぶさの膨らみを抱きよせるように、胸もとで組まれていた。

と、男が取り出したものを見て、眉をひそめる。

小さな拳銃。
いや注射器にも似ている。
男の指が引き金を引いた。
ハッと思ったときには、薄いボディコンの生地を通して、注射針が右脇腹にビンとつき立っていた。

えっ!

永瀬麗子は驚きに目をみはった。
痛みはない。
いそいで注射器を抜くと、針の先から液が滴った。
(な、なに……?)
が、永瀬麗子が結論にたどりつくことはできなかった。
躰がふらりと傾く感覚があったかと思うと、意識が、闇に落ちていくのを、覚えていただけだった。





[2006/09/09 15:22] | スリーピング・ビューティー | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
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